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藤の屋文具店

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海底軍艦

             海底軍艦 
                          昭和38年作品
 数万年前、一夜にして海底に沈んだムー大陸、だがムー人は、地熱のエ
ネルギーを利用して海底に高度な文明を築いていた。そして今、かつての
王国を地上に再現せんとして、その超科学をもって世界の国々に宣戦布告
する。迎え撃つは国際連合の参加にある米国海軍の最新鋭潜水艦「レッド
サタン号」。しかし、レッドサタンは、深海の水圧に負けて、なす術もな
く砕け散る。ムーが唯一恐れるは、旧日本海軍の轟天建武隊がひそかに開
発した万能戦艦「海底軍艦」。しかし、艦長はこれを日本軍のために使う
と協力を拒む。刻一刻と迫るムーの魔手。あやうし人類。

 そのとき、20年ぶりに再会した愛娘の言葉が彼を打つ。悩む艦長、そ
してムーの襲撃。瓦礫と化した秘密ドッグに、今、旧日本海軍最強の秘匿
兵器「轟天号」が唸りを上げる。「海底軍艦はこれより、ムー帝国撃滅の
ため出撃します!」伊福部マーチも高らかに、神宮寺大佐を艦長とする轟
天号は、艦首のドリルをムーに向け、突進していくのであった。。。

 日本映画最高の怪獣がゴジラだとすれば、最高のメカは、この轟店号で
あろう。機能に裏打ちされた必要最低限のデコレーション、古い時代の設
備での造船を物語る無骨なリベット、祖国の反撃を祈りながら、限られた
人員で知恵を振り絞り、絶海の孤島で製作されたことを彷彿させる、見栄
も気取りもない質実剛健そのままの造形は、その無骨な外観に、ある種の
美しさと、崇高ささえ感じさせる。

 さらにこの艦の魅力を高めているのは、艦長の神宮寺大佐である。愛す
る娘を上官の楠見少将にたくし、強大なちからで祖国を蹂躙せんとする横
暴な大国、アメリカの魔手から日本を救わんと、轟天建武隊を率いて超兵
器の開発に命を賭ける。だが、その20年間の努力は、変わってしまった
祖国にとってもはや迷惑でしかないと悟り、愛する娘に罵られ、自分の存
在する価値すら失いそうになる。

 そんな過去の亡霊のような神宮寺大佐が世界の要請を受けて出撃するに
は、どれほどの葛藤があったことだろう。アメリカンコミックのヒーロー
の対極にあるこのキャラクターのかっこよさは、あるいは、あの時代の日
本人にしかわからないのかも知れない。特に、わだかまりを捨ててムー攻
撃に向かうときのあの名セリフと、司令塔や潜舵を引き込み、なりふりか
まわぬ機能一点張りのロケットスタイルになって全力で突進していく姿は、
当時小学生だった僕の心には、どんな未来的なメカの発進シーンよりも強
烈に焼きついたのである。口先だけのフェミニストなんぞくそくらえ、こ
れぞ男の花道だよ。

 このかっこよさにくらべたら、ほかのこまごました矛盾なんてたいした
問題ではない。世界制服を狙う超文明を持ったムー人が、裸で腰ミノつけ
て竜を拝みながら踊っていようが、宇宙ステーションまで持っている地上
の人類が、そんなムー人の潜水艦よりヤワなのしか持っていなかろうが、
第二次大戦末期の設計の轟天号がそれより優れていようが、そんな轟天建
武隊の持っているのが、現在でも原理すら完成していない「冷線銃」で、
迎え撃つ超科学のムー人の武器は「槍」だったりしようが、そんなもんは
ぜ~んぶ、このかっこよさの前ではどうでもいいことなのである。



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